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都合のいい回答を交渉相手に選ばせる技術!
交渉を有利に進めたい、「自分が望む答え」を交渉相手が選んでくれればいいのに…。
そんな人におすすめしたいのが「決断誘導」という話法です。自分にとって都合のいい選択肢を作って、上手く交渉相手に決断を促していくのです。裏を返せば、このテクニックを知ることで、海千山千の建築・不動産業者の交渉で相手に都合よく丸め込まれないための技術でもあります。
「松竹梅」真ん中が一番人気の理由
大 好物のおすしを食べに行ったとき、店員さんからこう言われたらあなたはどのコースを選びますか。
「松は1万2000円、竹は8000円、梅は6000円です。どのコースされますか?」
あなたが最終的にどのコースを選択するかは分かりません。
しかし、竹のコースが最もよく選ばれることが多くの学術研究で分かっています。
売り上げをアップさせようと考えているすし店の店主であれば、お客さんに最も選んでもらいたい価格帯のコースは、竹の位置、つまり真ん中に設置すべきです。
利益が最も出るコースを竹に設定し、それを基準に、松と梅のコースを設定するわけです。
そうすることで利益を最大化させることができるのです。
ここには、どのような仕掛けが潜んでいるのでしょうか。
選択肢の作成や提示の仕方を工夫し、相手に決定を促す「決断誘導の型」という説明の「型」になります。
認知心理学や行動経済学の研究をヒントにした、即効性のある説明テクニックです。
「自分が望む方向」にお客さんの決断を促す
選択範囲が広くなればなるほど、お客さんか選びにくくなったり、あなたが意図するものとまったく違ったものを選択する可能性があります。
梅酒専門をうたう居酒屋に行ったときのことです。
お店に着くと、店員さんがメニューを広げ、こう説明してくれました。
「当店は梅酒の専門店です。梅酒だけでも50種類あります。どれになさいますか?」
お客さんはしばらく考えてから、結論は「とりあえず、生(ビール)で」でした。選択肢が多すぎて、選べなかったのです。
ビジネスシーンでは、こんなこともあります。
お 客さんから提示された納期に間に合わせることが難しいと思い、「提示いただいた納期が厳しい感じなのですが」と返答しました。
すると相手から、次のようなリアクションがあったのです。
「それでは、今回は発注数を減らすことにいたします」
こちらは納期の延長を検討してもらいたかったのですが、取引先にその意図は伝わらず、結果として発注数が減少(売り上げ減少)してしまいました。
このような事態を回避するために、伝える内容にこちらが意図することを加えます。
そうすることで、自分が持っていきたい方向にお客さんの判断を促すことが可能になります。
そのための具体的な方法は、こちらに都合のよい「選択肢」を作ることです。
こちらに都合のよい「選択肢」を作る
自 分にとって都合のよい選択肢を作って、それだけを説明の中に入れ込みます。
例えば、プライベートでパートナーに家事を手伝ってもらいたいとしましょう。
そのときに、「少しは家事を手伝ってほしいんだけど」と伝えるのではなく、「掃除と洗濯と食器洗いの中だったら、どれが今できそう?」…こう伝えます。
そうすることで、「家事を手伝うか、どうか」という選択ではなく、何かしらの家事を手伝うことが前提となります。
自分が選んでもらいたい選択肢を聞き手により高い確率で選んでもらう方法があります。
それは判断基準を示すことです。
例えば、家事をお願いする自分としては手の肌荒れを避けるべく食器洗いを選んでもらいたい。
そして、相手はすぐにでも家事を終えてしまいたいとします。
その場合は、「いちばん時間がかからずにすぐに終わるのは食器洗いかな。逆に、掃除だと少し時間がかかっちゃうかも」…このように伝えます。
早く終わらせることができるかどうかという「時間」を判断基準として説明に入れていくことで、聞き手は自分が望む選択肢を選びやすくなるのです。
ストレートに、「所要時間を基準に説明しようか?」と伝えてもいいでしょう。
【参考~即効フレーズ例】
「○○であれば、□□できそうだけれど、△△は難しいと思うよ」
「○○を基準に説明しましょうか?」
ここでの注意点としては、提示する選択肢を増やしすぎないことです。
選択肢が多い場合は選択肢を減らす、もしくは選択肢を3つ程度の枠でくくっておくことをおすすめします。
人が自信を持って選べる選択肢の数は4~6個まで、といわれています。
ただ、口頭のみで選択肢を提示する場合には「ワーキングメモリ(作動記憶)」を圧迫する可能性もあり、選択肢の数は3個程度にすることが望ましいと考えられます。
ワーキングメモリとは何らかの作業を行いながら、そのために都度、情報を一時的に保存する記憶のことです。
「松竹梅」の法則
最後に、選択肢を3段階に設定することができる場合、とっておきの秘策をお伝えします。
それは、最も選んでもらいたい選択肢を真ん中にすること。それだけです。
実 は、3つのレベルのものの中から真ん中のものを選びやすくなる心理作用があります。
これを「松竹梅の法則」(別名:ゴルディロックスの法則)といいます。
冒頭ですし店での事例を紹介しました。
この法則は、「低品質低価格」・「中品質中価格」・「高品質高価格」のカメラを用意し、どれを購入するかアンケート調査した研究からも確認されています(Simonson, 1992)。
結果は、6割の人が中品質中価格のカメラを選択したのです。
【参考~即効フレーズ】
「お値段の順に、○○、□□、△△となっていますが、どれ
にしますか?」
「難易度レベルは、○○、□□、△△の順です。いずれに
しますか?」
真ん中をより選んでもらいやすくするため、次のように説明を加えるのも効果的です。
「初めてご来店いただくお客さまの多くは、竹のコースを選ばれます」
「当店の一番人気は、この竹のコースです」
他の人々も「この選択肢を選んだ」と伝えることで、特定の選択肢に対する聞き手の決断を促すことができます。私たちは他人が何を正しいと考えるかに基づいて物事が正しいかどうかを判断する傾向があるためです。
【参考~即効フレーズ】
「皆さま、真ん中の○○を選ぶことが多いです」
「この○○が、一番人気です」
なお、選択肢を3段階にできない場合、例えば赤・青・黄の色みのようなどれも聞き手にとっては同列、かつ、違いがはっきり分かってしまう場合、あなたが最も選んでもらいたい選択肢は最後に提示するようにしましょう。
「最後にご紹介した黄色が最もおすすめです」
「最後の黄色が、一番お客さまに似合っていると思います」
これは、人は最後に提示されたものが最も頭に残りやすい性質を持つためです。
これを「新近効果」といいます。ぜひ試してみてください。
【参考~即効フレーズ】
「最後に紹介した○○がイチ推しです」
「最後の○○が一番おすすめです」
悪用厳禁!「興味がない」お客さんを前のめりにさせる話し方
「この話に知識も興味もない」というお客さんに、どうしても説明をすることになってしまった…。
そんなときにおすすめしたいのが「欠如アピール」という話法です。
相手に「不足」があることを知らせ、それを埋めることをアピールするのです。
「足りていない」と「埋めたくなる」
『生成AI(人工知能)時代にビジネスパーソンが生き残るためには、3つの力が必要です。1つめは情報の正確性を判断する批判的思考力、2つめはデータをもとに決断する意思決定力です。2つともすでに皆さんが学ばれているものです。そして、最後の3つめを、このあと紹介します』
・・・このように話をされると、最後のひとつが気にならないでしょうか?
実は、ヒトは「足りていない」と気づいたときに、「埋めなければ…!」という強い感情が湧てくるのです。
( ちなみに、最後の3つめの力は、新しいテクノロジーや知識を迅速に習得し、適応し続けるための「継続的学習力」が該当します)
批判的思考力や意思決定力をすでに知っていたり学んでいたりすることを前提にして、何の前振りもなく、「継続的学習力」を以下のように紹介しても、相手は聞き流してしまいますね。
「生成AI時代にビジネスパーソンが生き残るためには、新しいテクノロジーや知識を迅速に習得し、適応し続けるための継続的学習力が必要です」
つまり、現時点で、「あなたには足りていないものがある」という欠如を説明の前段に入れることで、聞き手の知りたい欲求をかき立てることができるのです。
こうしたヒトの心理原則を利用した方法は「欠如アピールの型」と言われます。
以下、この手法の具体的な使い方や、当てはめるだけですぐに使える「即効フレーズ」などを紹介します。
未知の情報が「自分ごと」化するステップ
こ の「欠如アピールの型」の効果はパワフルで、説明したい内容を短期間で相手に理解させることができます。
「欠如アピール」は次のようなステップを踏むことで、効果を最大限に発揮できます。
[ステップ1] 「不足」に気づいてもらうために、全体の枠組みを示す
[ステップ2] その「不足」を、話し手は補うことができると伝える
[ステップ3] 「不足」を埋める情報や知識を伝える
たとえば、以下のようなフレーズに当てはめながら使ってみるとよいでしょう。
【参考~即効フレーズ】
[ステップ1]「実は全部で○つあるうちのまだ△つしかあなたにはお伝えしていませんでした」
[ステップ2]「ですので、今からその最後の1つをお伝えします」
[ステップ3]「その3つめというのが、…」
大切なのは、ステップ1で「全部で3つある」といった枠組みをまず先に示すことです。
全体の枠組みを示しておかないと、そのあとのステップ2で話し手がその不足を補えることを伝えたときに、お客さんは「知らない」ことには気づくことができても、それが「満たされていない」ことには気づくことができないのです。
こ の2つのステップをきちんと踏むことにより、聞き手は自身の情報や知識が不足している状態であることを初めて理解できるのです。
最後のステップ3は、ステップ2で気づかせた聞き手の「不足」を埋める情報や知識を説明していきます。
この「不足」を埋める情報や知識が聞き手にとって未知のものであればあるほど、その後の説明のインパクトは強くなります。
この手順を踏むことで、欠けていた最後の3つめを手に入れられ、そのパズルのピースがバチッとハマるような感覚を聞き手に持たせることができるのです。
真面目で勉強家ほど「欠如」に弱い
「欠如アピールの型」は、パズルの最後の1ピースを埋める瞬間に似た快感を聞き手に与えることができます。
単にパズルのピースを1つ与えるよりも、そのパズルのピースが「最後の1つ」であるということを、あらかじめ聞き手に理解させておくことで大きな効果を発揮します。
そのピースの価値が跳ね上がって、そのピースをはめた瞬間に聞き手のワクワク感はピークに達するのです。
この型は、「揃(そろ)えたい」というある種のコンプリート願望が強い聞き手ほど、より大きな効果を発揮します。
たとえば、勉強や自己投資のためにと、新刊を中心にたくさん本を買って、「積ん読」してしまう方。
こういった方は、新しい本が出たら、「手に入れておかないとマズい!」と思ってとにかく本を買ってしまいます。
そういった真面目で勉強家の方ほどコンプリート願望が強く、この「欠如アピールの型」は効きます。
つまり、「欠如アピールの型」は、表現によっては、「恐怖訴求」のテクニックとも捉えられます。
「恐怖訴求」とは、不安や恐怖を刺激して聞き手の関心を引いた上で、軽減策や解決策を提示するものです。
「足りていないものがあるから成功できない→足りていないものは私がすべて持っている→だからこれを買ってください」というロジックで、聞き手の購買意欲を高めるのです。
こ の型は「足りていない」ことに対する恐怖心を意図的に煽(あお)ることができるわけです。
そのため、場合によっては、聞き手は冷静な判断ができなくなることにもなりますから、使い方には注意が必要です。
【参考~即効フレーズ】
「○○が足りていないから、□□ができないのです。その○○を、
私はお伝えすることができます」