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「省エネ義務化」で建築はどうなるのか?
来年、大きな変革が建築業界に訪れます。それは「省エネ義務化」です。
建築設計事務所及び工務店の立場からお伝えさせていただきます。建築設計事務所並びに工務店にとって、制約や義務だけでなく、新たなビジネスのチャンスをもたらす可能性が秘められています。どのような影響を及ぼすのか、どのような基準なのかを探ります。
工務店にとっての意味合い
この省エネ義務化の影響は、工務店にとって、新しい建築基準や法的制約を意識しなければならない一方で、それを乗り越えることで新たなビジネスチャンスや差別化のポイントを見つける契機ともなり得ます。
省 エネ関連の新サービスや商品の提供
省エネ義務化に伴い、それをサポートする新しいサービスや商品の需要が高まるでしょう。
例えば、エネルギー監視・管理システムの設置、高効率な太陽光パネルの取り付け、または家の断熱性能を向上させるリノベーションサービスなどが考えられます。
これらの新しいサービスや商品を提供することで、工務店は競争力を高めることができます。
省エネニーズに対応したマーケティングやブランディング
エコ志向の消費者は、省エネルギーを重視する企業やブランドに対して高い関心を持っています。
義務化に先駆けて積極的な取り組みやコミュニケーションを行うことで、企業ブランド価値を高めることができます。
例えば、SNSやウェブサイトでの情報発信、エコイベントの開催、または環境認証の取得などを通じて、省エネニーズに対応したブランディングを行うことが重要です。
新しいターゲット層や市場の開拓
新しいターゲット層や市場を開拓するチャンスでもあります。
例えば、若い世代や家族を持つ層は、環境に優しい家づくりに対して高い関心を持っています。
このようなターゲット層に焦点を当て、彼らのニーズに合わせたサービスやアクアレイヤー(写真)などのSDGSに適合する先進技術を取り入れた住まいづくりを提案することで、新しい市場を獲得することができます。
省エネ政策の変遷
省エネ義務化は、非住宅建築物では、2017年4月より義務化が始まっています。
現在に至るまで、非住宅における対象建築物の拡大や、住宅における説明義務の施行といった形で少しずつアップデートをしてきました。
来年の改正では全ての建築物が一定の省エネ性能への適合が義務化されます。
省エネ義務化で変わる建築士の役割
こ れまで300㎡未満の小規模住宅や非住宅に関しては説明義務に留まっていましたが、来年から全ての新築住宅・非住宅に省エネ基準適合を義務付けされることにより、住宅における建築士の仕事が次のように変わります。
1. 建築主に建築物の省エネ性能の向上(※1)について説明
2. 建築確認審査の中で省エネ適合性審査(※2)を受けるため計画書や計算書等の資料の作成が必要
3. 完了検査時にも適合検査が行われます
(※1)義務基準である省エネ基準を上回る省エネ性能の確保。修繕等の場合は「向上」
(※2)平屋かつ200㎡以下の都市計画区域・準都市計画区域の外の建築物は、適合性審査不要
つまり、建築士が建物の省エネ性能を計算し、その品質を保証できるように設計・監理しなければなりません。
等級見直しでこれまでの最高等級が最低等級に
2025年適合しなければならない省エネ基準とは
次に2025年に住宅建築物が適合しなければならない「省エネ基準」とはどのような値なのかについて説明します。
省エネ法で適合が義務付けられる住宅の「省エネ基準」は、①外皮(躯体や開口部)の熱の通しにくさ = 「断熱性能等級」、②消費される一次エネルギー量 =「一次エネルギー消費量等級」の2つで評価します。
2025年以降には、すべての住宅で「断熱等性能等級4」「一次エネルギー消費量等級4」以上を満たすことが求められるようになります。
断熱等性能等級とは
断熱等性能等級(断熱等級)とは、住宅の断熱性能がを表す等級のこと。
等級は1~7の7段階で、数字が大きいほど断熱性が高いことを示します。
断熱等性能等級は、地域区分ごとに必要な「UA値(外皮平均熱貫流率)」が定められています。
UA(ユー・エー)は「室内と外気の熱の出入りのしやすさ」を表したもの。
建物の内外の温度差を1℃とした時に、建物の内部から外へ逃げる単位時間あたりの熱量を外皮面積で割ることで算出します。
つまり、このUA値が小さいほど熱が出入りしにくく、断熱性能が高いということを表しています。
一次エネルギー消費量等級とは
住宅が一年間に消費するエネルギー量を表します。
一次エネルギーとは、石油、石炭、天然ガス、太陽光、などの自然界で採れるエネルギーのことで、家庭で使用される電気、ガス、灯油などの二次エネルギーとは別に表現されます。
具体的には「設計一次エネルギー消費量」÷「基準一次エネルギー消費量」で求められるBEIという数値で等級が決まります。BEIが小さいほどエネルギー消費量が少なく、等級は高くなります。
国が定める省エネ住宅の基準では、一次エネルギー消費量等級4以上の適合が求められます。
基準を満たす性能では不十分
建 設地の気候ごとに異なりますが、断熱等級4(省エネ基準地域区分6)を満たす断熱仕様は、国土交通省から公開されている断熱仕様を参考にすると、下図のような仕様になっています。
前頁で示した仕様はあくまで断熱材やサッシの一例ではありますが、おそらく現在の新築戸建住宅で達成されている性能かと思います。
なぜなら、「断熱等級4」という基準は、今から約25年前の1999年(平成11年)に制定された次世代省エネ基準と同等であると言えるからです。
2025年度以降は全ての新築住宅に等級4以上が義務化されるため、これまで最高等級だった等級4は実質、最低等級になり、それ未満の住宅は建築することができなくなります。
さらに、2030年には省エネ基準の水準が引き上げられ、断熱等級5が最低等級になる予定です。
一次エネルギー消費量等級4で必要な設備は?
次に一次エネルギー消費量についてですが、こちらは国立研究開発法人建築研究所という機関で公開されている計算プログラムを使って計算することができます。
計 算例…木造軸組工法の2階建て住宅をモデルとし、諸元は以下のとおり(エネルギー消費性能計算プログラムより算出)
簡易計算ルートで出力した結果、LED以外にこれといった高効率、省エネな設備を使用しておりませんが、
BEI=0.99という数値結果となり、断熱等級4基準(BEI≦1.0)を下回り「基準達成」となります。
いかがでしょうか? 建築においても、設備においても特段の工夫はをしなくても、2025年の省エネ基準を達成できてしまうものになります。拍子抜けですが、差別化のチャンスであることが分かります。
今後の展望
グラフは、スウェーデンハウス(東京)が新築・リフォーム予定のある消費者1000人に行ったアンケート結果です。まだまだ「省エネ義務化」の認知度は低く、他に先駆けて消費者にPRして省エネ対策万全であることを印象づけるチャンスです!
現代の経営環境は、単に利益を追求するだけでなく、環境や社会に対する配慮が求められる時代です。
省エネ義務化は2025年を境に実施されるものの、それ以降も継続的なエネルギーの効率化や低炭素化が進むことが予想されます。
再生可能エネルギーの更なる普及、スマートホーム技術の進化、そして建築物のライフサイクル全体でのエネルギー消費の最適化など、多岐にわたるトピックが注目されるでしょう。
工務店としては、これらのトレンドを早期にキャッチし、ビジネスの方向性を見据える必要があります。